短歌

花とチャック flowers and zippers(第5回歌葉新人賞候補作/2006年)

人間の這入っていない着ぐるみを膝に寝かせた 雨が止んだら

きみの抱く消火器は空 ねがえりをページをめくるようにつづける

クリスマス・ツリー並木がくねくねと余さず誘拐現場を巡る

右にいた人がいないと右からの陽射しで焼けてしまう右顔

恋人の遅刻に焦れる人妻という設定でティッシュを配る

砂浜で風にころげる水玉のビニール・ボール きのうもあった

風船を埋めた地面をはこぶ船 顔にはいつも目鼻を添えて

捜された和服のひとが地面から掘り出されてる小石とともに

自動ドアって書いてるだけのただのドア閉めにいく家族をぬけだして

ガムを噛む私にガムの立場からできるのは味が薄れてゆくこと

悲しいと思ったことがない犬を友だちにして夏を見送る

街灯が消える時刻に街にいるだれも袖から手首をたらし

駅までの坂を駅からくだるときすれ違う顔にある見おぼえは

部長から課長の耳に囁かれ花ことばに付け加わる社風

ここから 渡り廊下のような一行を足音だけで満たす ここまで

AV女優引退記念桜上水でいちばんおいしい醤油ラーメン

信号で曲がるところを間違えた団地の先に団地がつづく

しらけたね場にかげろうが揺れている何だか恐い言葉がくるよ

額縁をぬけだすように手をのばす「雨じゃないみたい」とつぶやきながら

突っ伏した胸の鼓動に揺すられて見てる花火が照らすあとがき

爆弾と大和撫子はこばれてゆく首都高の出口すべてに

あの四角い職業欄にぴったりの雨染みだからこれでいいのだ

波が洗うサイクリング道路ひきかえす 悲鳴でしゃべる女となって

家事手伝い、というのは嘘で手伝わない家事を眺めつつする武者震い

本当はもう死んでるの 帽子掛 あなたが話しかけているのは

分けて書く苗字と名前くちびるに上下があるとされる私に

知り合いの知り合いだから五線譜のバラ線越しに手紙をわたす

町のある砂漠を午后の各駅の窓から見ててやがて目ざめた

この秩序に賛成だから雨の中を白紙で掲げ歩くプラカード

閉じるとき心はチャックに巻き込まれ何か叫んだように朝焼け

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ニセ宇宙(第2回歌葉新人賞候補作/2003年)

世界恐怖症

出口はひとつしかなく銀色のドアノブに指紋かさねゆく 死は

パイ投げのパイが視界をよこぎって修羅場にかわる夏の教室

体温計挿んだまま眠っている キノコの餌になる夢見ている

満ちていく海にたゆたうあの髪はあたしの髪よそう告げてきて

あの月の欠けた部分でこすられた野原に薄い街がひろがる

月食のはじまる時刻おしえてもおしえても聞き返す寝言は

<時計を投げ捨てよ>灰から灰色の娘がめざめ口をきく日に

夏の終り小雨に湿る歯ブラシを託す裸体画モデルのゆびに

とりどりの瞳の色に咲き誇るポピー畑がみていた洪水

切り裂き魔きりさきマコが出没する星座通りの乙女座の髪(付近)

切り裂き魔きりさきマコの犯行と断定 ずたずただったぼくらも

雨を待つ気分で騒ぐぼくたちが本当はだれもいないということ

ぼくたちは陽気に眠る かぞえてもかぞえても数があわない集団

迷信をすべて信じるママの目にたくさんお墓が映っていた日

ペンキ缶浴びた兵士が青空を撃ちつづけてる 汐風の中


贋地球時代

「ダッチワイフに生まれ変わるの」真っ黒なリボンで結ばれていた朝顔

パーマン何号が猿だっけ? このゆびは何指だっけ おしえて先輩

それくらいいつも金魚が目の前をぴちぴちはねる死ぬ前のこと

青ざめていくあいだじゅう手拍子がキャベツ畑のほうから響く

砂糖匙くわえて見てるみずうみを埋め立てるほど大きな墓を

よく冷えたトマトジュースで洗ってと書かれたメモが帽子の中に

三回転コースターから未配達郵便物がとび散って 蝕

晴れわたる空に星座の滲みだす音楽、脳によくない音楽

だれの手か分からぬものが土塀よりつき出している 鳩を掴んで

意志のない目をして笑うスナップにお花畑の一員として

赤い目をしてない写真一枚も いちまいもなく ぼくもウサギも

子守唄の二番の歌詞をでたらめに歌うとき夢の出口が変わる

線路が消えたところだけ白い草原を怪我したように引きずって風

気がつけば口に栞をはさまれて星を見ている八月の海

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インフェル野(第3回歌葉新人賞候補作/2004年)

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帰る気のしないホテルに少しずつ窓がふえていく音がする

青空がくらくて途にまよいそう 街 沢山の手のひらが飛ぶ

階段が盗まれた家ぬすまれたかいだんがあるいえ草原

にせものの貴方が(きれい)ずぶ濡れで足りないねじはバイクから摘む

はちみつの濁るところを双眼鏡さかさまに見る震えながら

おはようおはよう、さいごのドアをたたくとき 背後のドアは叩かれている

ゆびぶえの鳴らないひとが玄関のベルで合図を送る火星に

台風の目をみたあとで愚かさがはじまる 壜のなかの靴音

屋上と屋上がつながりあって 道 になるほどのふるい、再会

ぼくが足を滑らせる穴ことごとく火星に通じているのも妙だ

三毛猫をさかさに抱いて睡たがる女の子はみんなきちがい

逃れないあなたになったおめでとう朝までつづく廊下おめでとう

オムレツに包んだものの詳細を書いた手紙が届く食後に

夕焼けのたけやぶやけた焼跡のあんなところに四階がある


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 ブラボー!
 過去は遠ざかる一方だ

墓石を小窓のように磨く手が墓のうちなる手とさぐり合う

くちばしにイニシャルきざみ朝焼けの電波塔から逃がす海猫

ぬくもりを残しそうな手もつぼくに鏡のぼくが目を合わせない

はねられた生き物たちが道ばたに埋められていく 墓地がひろがる

滅んでもいい動物に丸つけて投函すれば地震 今夜も

二人いる黒眼鏡のうちどちらかが私であろう線路を歩く

あいさつが花粉をとばす すれちがう人のシャツから伸びる巻きひげ

蜃気楼だったといえば嘘になる半ば草原化した文化祭

そんなのはクー・デターにはかぞえない表紙に草のはえた電話帳

指に蛾をとまらせておく気のふれたガール・フレンドに似合う紫

抱いていい動物たちのリストより外されたとき野道は静か

水族館だった建物 あらそって二階をめざすけむりのように

ともだちの友達だった頃駅で回送電車越しにおじぎする

日なたから帰ってこない友達を思い出せないまま冬が来て

陽をあびた長い廊下を足音が近づいてくるこれからずっと


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 どこかへ行こうというきみはどこに行くつもりがあるでもなかった
 あしたからいいことが始まると天気予報みたいにいいっぱなしにして
 青天井でいい気に月までコーラの泡が吹きあがっていく!
 いい風がくる!
 そんなこと一瞬でも疑えば水の泡
 忘れっぽいぼくらの思い出の中

生き地獄めぐりは続く花束をバスの窓から投げるぼくらも

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水の泡たち(第4回歌葉新人賞候補作/2005年)

指環から抜けないゆびで二階から二階へ鳩をとばしあう海

すじをひく星が夜明けのあちこちをコンビナートの寝息のように

窓で目があう人もいるきみはただ手ぶらで海が見たかっただけ

とびちった花びらも濡れた下生えも気にせず進め けど首がない

雨にぬれた水着を吊るす ぼくらには大西洋へ注がない河

まじわった線路は海に国道は林にきえてあの街は未来

どこまでが駅前なのか徒歩でゆくふたりでたぶん住まない土地を

レンズ雲うかべた午后をうたたねで過ごすバイクを盗まれながら

自転車をひきずる森でかなたより今うでの毛のそよぐ爆発

森の樹にぶつけた車乗り捨ててぼくらはむしろ賑やかになる

ないものが陽を浴びている公園の跡地つぼみをくわえてきた犬

夏雲にむせぶスキャット舌だして溶けない飴を見せたがる日の

手裏剣に似た生き物が宇宙から降ってきたわけではなく夏よ

見ないようにしていたものを見てしまう指のすきまに睫毛がふれて

「先生、吉田君が風船です」椅子の背中にむすばれている

風邪をひきやすい先生によろしく(と叫べば火のようにかるいメンス)

椅子に置く花束でしたともだちが生まれ変わると向日葵になる

さようならノートの白い部分きみが覗き込むときあおく翳った

道なりにゆく埋立地うめたての海の気配をこわがりながら

ひとりでは歩けない影ひきずって階段くだりはじめる雨の

飼い犬におしえた芸をきみもする いくつものいくつもの墓石

雨雲をうつしつづける手鏡はきみが受けとるまで濡れていく

夏の井戸(それから彼と彼女にはしあわせな日はあまりなかった)

砂壁のくずれる日々をながめては ぼくらはいつか穴でつながる

七時から先の夜には何もない シャッターに描き続けるドアを

あの馬鹿が旅に出るならぼくたちは旅には出ない 出ないなら出る

時計屋に泥棒がいる明け方の海岸道をゆれていくバス

蛾をつつむ素手で いつもの手紙にはいつも なんだか挿んでいたね

(運転を見合わせています)散らかったドレスの中に人がいるのだ

はしらない?ウルトラマンの3分が終りかけてる明滅のな

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