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インフェル野(第3回歌葉新人賞候補作/2004年)

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帰る気のしないホテルに少しずつ窓がふえていく音がする

青空がくらくて途にまよいそう 街 沢山の手のひらが飛ぶ

階段が盗まれた家ぬすまれたかいだんがあるいえ草原

にせものの貴方が(きれい)ずぶ濡れで足りないねじはバイクから摘む

はちみつの濁るところを双眼鏡さかさまに見る震えながら

おはようおはよう、さいごのドアをたたくとき 背後のドアは叩かれている

ゆびぶえの鳴らないひとが玄関のベルで合図を送る火星に

台風の目をみたあとで愚かさがはじまる 壜のなかの靴音

屋上と屋上がつながりあって 道 になるほどのふるい、再会

ぼくが足を滑らせる穴ことごとく火星に通じているのも妙だ

三毛猫をさかさに抱いて睡たがる女の子はみんなきちがい

逃れないあなたになったおめでとう朝までつづく廊下おめでとう

オムレツに包んだものの詳細を書いた手紙が届く食後に

夕焼けのたけやぶやけた焼跡のあんなところに四階がある


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 ブラボー!
 過去は遠ざかる一方だ

墓石を小窓のように磨く手が墓のうちなる手とさぐり合う

くちばしにイニシャルきざみ朝焼けの電波塔から逃がす海猫

ぬくもりを残しそうな手もつぼくに鏡のぼくが目を合わせない

はねられた生き物たちが道ばたに埋められていく 墓地がひろがる

滅んでもいい動物に丸つけて投函すれば地震 今夜も

二人いる黒眼鏡のうちどちらかが私であろう線路を歩く

あいさつが花粉をとばす すれちがう人のシャツから伸びる巻きひげ

蜃気楼だったといえば嘘になる半ば草原化した文化祭

そんなのはクー・デターにはかぞえない表紙に草のはえた電話帳

指に蛾をとまらせておく気のふれたガール・フレンドに似合う紫

抱いていい動物たちのリストより外されたとき野道は静か

水族館だった建物 あらそって二階をめざすけむりのように

ともだちの友達だった頃駅で回送電車越しにおじぎする

日なたから帰ってこない友達を思い出せないまま冬が来て

陽をあびた長い廊下を足音が近づいてくるこれからずっと


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 どこかへ行こうというきみはどこに行くつもりがあるでもなかった
 あしたからいいことが始まると天気予報みたいにいいっぱなしにして
 青天井でいい気に月までコーラの泡が吹きあがっていく!
 いい風がくる!
 そんなこと一瞬でも疑えば水の泡
 忘れっぽいぼくらの思い出の中

生き地獄めぐりは続く花束をバスの窓から投げるぼくらも

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