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Dr.STRANGELIMB【あ】博士の変な手足

 今夜もロボットがひたひた歩いてきた。発狂した電子頭脳が迷子のようにぼくをさがすあの気配。薄暗い宇宙空間にぼくときみのアルバムいっぱいの思い出ひ ろがる深更を、銀色のシェルターみたいなデカ足で蹂躙する一つ目の巨人……殺人ビームで二万人殺しの死刑囚サウスポー・ジャック。あいつに人並みの理性や 知能を期待するだけ無駄だ。あらゆる生身の苦痛や懊悩を白目しかない赤外線アイは理解しない。見つめるのは虚無。踏み潰す人間の情報すべてをデータ・ベー ス化するあいつはすぐれたマーケティング屋だった。それがあの日からあんなことに……。
 手足に進化の徴候があるとして博士はまるで英雄扱いだった。ぼくらの栄養不良な間伐材みたいな四肢とくらべて新時代的デザイン、博士は代々博士の家で富と技術を惜しみなく注ぎ込まれた「嫡子にして作品」だ。
「ママが優しく遺伝子撫でてくれた。パパのつくる化学スープは骨まで滲みたね」
 生まれながらの半機械生命。しかしアンドロイド呼ばわりが死ぬほど嫌い。
「私はいつか立候補したいが今の法律じゃ機械は無理でね」
 夏の午後アルバイト帰りにぼくはきみに出会ったあの日。下水溝に轢き逃げされた小人みたいな目でぼくを見ていたあの顔。拾い上げた手のうえで笑った仮面みたいな女の子それが最初だった。
「誰かに似てるね、気のせい?」
 肺も喉も持たない薄い君はただ笑うだけ。
「気味が悪いわ明日のゴミに混ぜちゃいなさい勉強に差し支えるわ」母が顔を曇らせ重苦しい空気の食卓。「そんな怪我でまだ生きてるの? だからロボットなんて本当に怖い」
 口の中に製造番号。これは博士の初期デザインでぼくはマリーと名づけた。
 マリーを手に取りそっと顔にあてがってみる。鏡の中のぼくはマリー。マリーはぼく。

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