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まぼろしの神経戦

「天井裏にいる奴らだよ。それ以外考えられない」
 男はアザだらけの顔を私のほうへ向けて声を漏らした。
「つまりあなたは、謎の集団に夜な夜な頭の中をいじり回された揚げ句、目玉を盗まれたというのですか」
 私は思わず吹き出しそうになるのをこらえて、ゆっくりと訊ねる。男は軽くうなずきかけてから、慌てて首を振った。
「いいや謎の集団じゃない。奴らは俺の子孫なんだ」

 男の言い分はこうだ。何十代も先の自分の子孫が、時間を遡って自宅の天井裏に潜んでいる。奴らは夜毎降りてきては暴力を振るう。最近とうとう眼球を奪われてしまった。時折、奪われた俺の目玉が今どこかで見ている光景がフラッシュバックのように頭に飛び込んでくるが、それはこの世のものとは思えない酷い光景だ……。
 男は貧乏揺すりを続ける膝に手を載せて、泡のついた唇を開く。
「理由なんて知るもんか。とにかくあいつらはまともじゃないんだ」
 落ち着きなく体を動かしながら、消え入るように続けた。
「朝起きると、体がアザだらけになってる。だけど何も覚えてないんだ。……かと思えば、鉈でぶち殺された記憶なんてものがあるんだよ、ズタズタに切り裂かれて……」
 私はかまわず機械的に質問を続けた。
「だけどおかしいですね。あなたの目は今、ごく普通に私のことを見ておられる。特に変わった様子もないようですが」
 男は激しくかぶりを振った。
「冗談じゃない。俺には今、あんたの声しか聞こえてない。何も見えてない。俺の目は空洞なんだ。俺の目玉は奴らの手元にあって、今頃恐ろしい場景を」

 私は彼の目に顔を近づけていった。
「見えるでしょう? あなたは見えているはずです、本当は」
 男の顔面は蒼白になった。
 声にならない叫びが言葉に変わるのに、数分間を要した。
「……今、俺にそっくりな顔が、だけどまるで死人みたいに無表情な顔が目の前に、いや頭の中に飛び込んできて、そいつは手に、鉈を持っていた。ああ、今度こそ俺は殺され」

 男が言い終る前に、私は手にした鉈を机上の眼球に振り落としていた。
 ぐふ。
 という息を残して男は悶絶する。

 暗い部屋。我々の前には潰れた目玉の欠片が薄汚く散らばり、頭を機械に喰わえ込まれた男が天井から絞首刑のようにぶら下がる。だらしなく足が揺れていた。アザだらけの狭い額に滲む脂汗。
 掃除中。頭ノ中ヲ掃除中。多少ノごみハ残ルケレド。誰かがそう呟くと、我々は堪えきれずにゲラゲラ笑い出す。ゲラゲラゲラゲラ。静寂……

 そして今日も天井裏で夜を待っている。

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