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飾り窓の女

 くちぶえを吹かれてふりかえると、そこは砂時計のガラスの表面に映った街路で、くちぶえの主は警官だった。
「名前で呼んでよ」
 女は馬鹿にしたような真面目くさった口調で云った。
「ちょっと質問があるんだがね。お嬢さん」
 警官は表情ひとつ変えていない。
「最近、こんな男を知らないかね。警察官の制服を着て、街娼に声をかけてくる。特徴は巧みなほのめかしと脅迫、それに猫撫で声だ。連れていかれた女は、生きてふたたび街には帰ってこない」
「知らないわねそんな話」
 女は砂時計に指をのばした。
「わたし忙しいのよ」
 つまみあげた砂時計をひっくり返すと、ガードレールの前に立てかけられた花束にならべて足もとに置いた。砂のこぼれる音が夜の喧騒にまぎれて耳まで届かない。
 警官の姿はどこにもなかった。
 路の反対側のショーウインドーにうつる自分に手を振り、手を振り返されたことで女は満足したように歩き出す。
 ウインドーの女だけが残った。砂時計の砂がこぼれきってしまうまでのあいだ、少し困ったような顔で、さらさらとなまぬるい夜風に吹かれていた。

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