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廻転

 見て見て見て。
 骨が見えるでしょほらね。がしがしってこするのよ。がしがしって。この頬のあたりよ。そしたらほら見えたでしょ、骸骨。たぶんこすられたとこの 肉が瞬間薄くなるでしょ、それで透けるのよきっと。透けて見えるのよ。それで、どうかしら? きまってるでしょあたしの骸骨よ。だって前から気になってた んだけど、あたしの骸骨って黒いじゃない。ね、へんだと思う? でも普通は見えないから気にしないの。気にしないことにきめているの。あんまりほっぺた触 らないようにしてる。だから誰にも言わないでね。でも死んだら焼かれてしまうでしょう? そしたら骸骨が黒いことばれちゃうわ。そんなことになったら一生 が台なしになってしまう。だって骸骨が黒かったら、子供みたいなワンピースも、ハートのついたバッグも、ぜんぜん意味がないじゃない。骸骨が黒かったら、 ばかみたいに楽しいお友達も、死ぬほど真白なお部屋も、ひとつ残らず無意味になるじゃない。
 ねえほらがしがしがしがし黒いでしょやっぱり。あたし骸骨のこと考え出すとくやしくて絶望的になるの。だってがしがしがしがしやっぱり黒いで しょあたしの骸骨。こんながしがしがしがし黒い骸骨の女の子なんてぞっとするわよねがしがし。ねえねえがしがしこすると少しずつ皮膚が摩擦で薄く透けてい く気がするわ。それであたし黒い骸骨が普段から透けてる女の子になるのがしがし。みんなあたしを見てがしがしたちまち鳥肌が立つわがしがしがし。
 鏡貸してくれる? ありがとう。ああもうすっかり手遅れだわ。ねえ今おしりまで鳥肌が立った。この際あたし骸骨の黒い女の子ですって立て札 持って歩こうかしら。だってみんなあたしの噂してるのよ。ひそひそ喋られるのって嫌いなの。鳥肌が立つの。ああ骸骨の黒い女が来たって顔見合わせて笑って るのよ。友達だった人も、骸骨の黒い女と話すのはいやだなって顔を必死で隠してるのが分かるのよ。電話をかけると居留守を使うし、外で会っても目を合わせ ないようにしているし。知らない人もあたしの視界から消えた途端に悪口を言い始めるの。みんな少しずつあたしのこと嫌ってるのがわかる。あたしを見た人は 心の隅で骸骨の黒い女なんか見るんじゃなかったって必ず後悔してるのよ。そのたびあたしの骸骨にぴぴぴってヒビがはいるの。するとヒビから墨汁みたいな黒 い汁がとろとろ出てくるの。黒い汁は出始めると止まらないの。眼玉の穴とか顎の隙間とかからもとろとろ出始めるの。
 そしたらだんだん目が悪くなってくるの。耳が聞こえなくなってくるの。なにか言おうとするとそれが言葉じゃなくて動物みたいな声でぞっとする わ。でも頭の中は信じらんないくらい色んなことを物凄い速さで次々と考えているの。速すぎて目が回る。頭の中で地球ゴマがくるくる回っているの。それが数 えきれないたくさんの真っ黒な地球ゴマなの。くるくるくるくる骸骨の中を地球ゴマが回りながらどんどん増えていく。ねえまだまだいくらでも増えるのよ?  だからうるさくて眠れないの。でもひとつひとつ回転を止めても間に合わないの。ひとつ止めている間に三つ新しいコマが回りはじめるからいつまでも追い付け なくて頭の中が銀河系みたいに拡がってきてるわ、ねえ見て見て足元から地平線までびっしりと地球ゴマに埋め尽くされてもう身動き取れないし眼玉の中でも 回ってる耳の中でも回ってる舌の上でも回ってる、くるくるくるくる回ってる止まったらどうしよう止まったらどうしよう止まったらどうしよう止ッタラドウシ ヨウ止ッタラドウシヨウ止ッタラドウシヨウトマッタラドウシヨウトマッタラドウシヨウトマッタラトマッタラトマッタラトマッタラとまったらとまったらと まったらとまったら

 止まらない。

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