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夜警

 日本の跡地いっぱいに迷路が建造された。もとからある建物はそのまま維持されたが、隣家の玄関先に立つのさえ最短距離で(つまり迷う時間を考慮せ ず)一週間以上かかる場合もある。雲を突いてそびえる壁一枚へだてて、すぐそこに暮らすはずの人はもはや隣人ではないのだ。距離と時間についてまったくべ つの考え方が要求された。

 私は夜警として迷路のある一点から歩き始める。壁に挟まれて前後にひろがる空間が垣根に突き当たれば よじのぼり、民家で阻まれていれば合鍵でドアをあけて裏の窓から出た。私は勤務時間中ひたすら歩き続け、終るとその場所で次の勤務時間が来るのを待った。 下手に動くと元の位置に戻れなくなる心配があるからだ。

 私はゆうべの担当者がひと晩かけて歩いた道を今夜ゆく。私がゆうべ歩い た道は今夜はべつな担当者が歩くだろう。一定の間隔を置いてわれわれは夜警の旅を続ける。それは建前あるいは理想であり、事実は、私のあとに従うはずの者 がどこかで堂々巡りに捕まっているかもしれない。前方を行くはずの者がそれと知らず私に追い抜かれているかもしれない。だとすれば私が彼に替わり、誰かが 彼に替わるだけだ。私もまた誰かにたやすく替わられることができる。私は自分以外の夜警に会ったことはないが、先行者も後続者も、さらにその先や後ろに延々とつづく夜警の列の、どの顔も私に似ていることを知っている。

 私たちは夜警以外の何にも似ていないのだ。そして夜警は必ず、どのみち、入口の出口のあいだを歩いている。

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