兄
「あの雲をよく見て」と妹が言った。「パパのしかめっ面に似てると思わない?」
窓に夕陽が当たり、目の中にオレンジ色の光が吸い込まれてくる。
「ハンバーガーはいつからこんな値段なんだい?」ぼくは訊ねた。「釣銭を見てびっくりしたよ」
「さあね。ほら、顔がだんだんくずれてきちゃう。ねえちゃんと見てよ」
それから五分後。妹は不機嫌そうに指先でストローをいじくっていた。
「本当にパパそっくりだったのに。あんなの二度とないことなのに」
ぼくはハンバーガーから抜き取ったピクルスを紙ナプキンにならべた。「好きじゃないんだよな、これ」
「パパが甘やかしたのよ」と妹が言った。「ぶん殴ってでも、好き嫌いを無くさせるべきだったわ。そのほうが実際は子供のためなんだから」
ふん、ふん、とぼくはうなずいた。うなずきながらピクルス抜きハンバーガーを齧る。
隣りのテーブルで、小さな女の子が声に出して絵本を読んでいた。
内容は子供が読むには全然ふさわしくないもので、耳を覆いたくなるような単語が何度も耳に届く。
夕陽が定休日のショッピングセンターの屋根に身を隠した。
「あれっ」
ぼくは立ち上がって店内を見回した。
「ここはマクドナルドじゃないか。いつからマクドナルドにいるんだい?」
まわりの客がけわしい顔でこちらを見ていた。カウンターから店員が身を乗り出している。
隣りのテーブルの女の子が、絵本を読むのを中断して不思議そうにぼくの顔を見上げた。
| 固定リンク
