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ホテル

 幽霊が出ると評判のホテルがある。某代議士が自殺したことで一時は話題になったホテルだが、出るのは代議士ではない。
 五歳くらいの男の子である。
 部屋に入って電気を点けると、奥の方でかさこそと物音がする。このとき気づいてフロントに連絡すれば、何も言わずに部屋を替えてくれる。
 豪胆なあなたが気にせず中へ踏み込むと、小さな人影が目の前を横切り、バスルームへと消えていくだろう。このときフロントに連絡すれば、部屋を替えてもらったうえ、ホテル謹製の洋菓子折まで手渡されるかもしれない。
 もっとも不幸なあなたは、意を決してバスルームのドアノブに手をかけてしまうはずだ。中にはもちろん、五歳くらいの男の子の姿がある。シャワー カーテンが赤く染まっているのも言うまでもない。不審なのは手首をざっくり切って浴槽に横たわる五歳児が、新聞やテレビでよく見たあの中年代議士の顔をし ていることなのだ。

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