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タオル

 Aさんが以前住んでいた家は、墓地と墓地のあいだに挟まれるように建っていた。
 田舎で庭がかなり広かったし、どちらの境界も常緑樹の枝葉で目隠しされていたから、とくに気になることもなかった。家の前の道は未舗装で、バス通りから畑を抜けて公民館の裏までをつないでいた。畑仕事に行く人以外ほとんど歩く人はない。
 ある年、原因は不明だが墓地とのあいだに生えていた木がすべて枯れてしまったという。
 すっかり見通しがよくなり、Aさんの勉強部屋がある二階の窓から墓の様子がよく見えるようになる。
 蝉の声がはげしく聞こえていた。Aさんは夏休みの宿題がなかなかはかどらず、ぼんやり外を眺めていた。
 気がつくと、となりの墓地に人影がある。草むしりに来ているらしく、首に白いタオルをかけた人が腰をかがめているのが見えた。こちらに背を向けて、体の半分くらいが墓石の陰に隠れている。
 何か変だな、とは思ったが、どう変なのか最初はAさんにもわからなかった。
 腰を折り曲げた男の人、だと思ったそれは、よく見ると墓石の側面から上半身だけがはえているのだった。
 Aさんは悲鳴を上げ、階下にいる母親を呼びながら部屋を飛び出した。
 けれど階段の手前の廊下の窓から、反対側の墓地の全景が目に入るとAさんは意に反してその場に立ち止まってしまう。
 こっちの墓にも人影があったのだ。
 いや人影と呼ぶには足りなすぎる。ひときわ古い墓石の中ほどから、茶色っぽいズボンをはいた両足だけが覗いていた。
 その人の上半身が隠れるだけの空間はどこにもなかった。
 Aさんは今見たばかりのものを必死で母親に伝えた。
「変なこと言う子だねえ」
 眉をひそめながら母親は両方の墓地を見てきてくれたが、誰もいなかったという。
 ただ家の前の道で、このあたりでは見かけない男の人とすれ違ったと言った。
 その人は茶色いズボンをはき首からは白いタオルを下げていて、まるで絵の具で塗ったように顔色が青かったそうだ。

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