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私は幽霊を見た

●厚木市 47才 団体職員
「うちの隣が墓地なんで、もう別に怖いとか気味悪いとか思いませんね。慣れてますから。でもこないだ朝早く墓参りしてる人がいたから、誰だろうと 思って二階の窓から見てると、去年死んだ近所の酒屋の主人なんです。私はびっくりして妻を呼んだんですが、そのときはもう姿がありませんでした。妻の言う には、亡くなった酒屋の兄弟や親戚が墓参りに来てたんじゃないかって。あんまり似てたから見間違えたんだろうと言います。どうなんでしょうね、言われてみ ればたしかに死んだ酒屋はあんなに痩せてなかったような気もするんですがね。私が見たのは、頬なんてこけちゃってまるで死人みたいでしたから」

●杉並区 28才 会社員
「大学時代、サークルの合宿で箱根に行きました。芦ノ湖で遊覧船に乗ったんですが、霧が深くて景色が退屈だったんで、合宿に来なかった奴の噂話を してたんです。やがてKという一年生の話になりました。彼は夏休み前から入院してたんですが、サークル内に親しい人間は誰もいなかったので、病状を知る者 がありません。当然のように重病説が囁かれていました。その時も誰かが『あいつは全身に原因不明のおできができて高熱が下がらないらしい』なんてことを言 い出したんです。私は何だか嫌気がさしたので、話題を変えようとしました。ところがみんな目の色を変えてKの病気について詮索しはじめていて、おできの原 因は何だろうとか、おできは紫色かもしれないとか、とにかく私の声に聞く耳を持たないんです。異様に盛り上がってる。ところが船を下りた途端みんなけろっ として違う話をしていました。合宿から帰ってきて、私はふとそのことを思い出したのです。ところが誰に聞いても、あのとき一体誰が(Kは原因不明のおでき で苦しんでる)などと言い出したのかわかりませんでした。たしかにそんな話をしたことだけは確実に覚えているのに、です。Kは休み明けに退院したらしいで すが、サークルにはそれきり顔を出しませんでした。だから入院した理由もすっかり聞けずじまいです」

●浦和市 31才 主婦
「子供の頃、暗くなった帰り道をひとりで歩いてたら、道路の真ん中に水の入ったコップが置いてありました。よく見ると中で金魚が泳いでいます。私 は金魚が車に轢かれないようにと思い、コップを道路ばたに移動しておきました。次の日、友だちのゆかりちゃんがその場所を通りかかったところ、ライトバン にはねられて重傷を負いました。弟と一緒に現場を見に行くと、警察官や野次馬がたくさん集まってましたが、道ばたにある金魚の入ったコップのことは誰も気 づかないみたいでした。私はそっとコップを持ち去って、金魚を近くの川に逃がしてあげました」

●日野市 40才 理容師
「まだ長男が生まれる以前、妻と二人で東北を回ったんですね。ちょうど台風が近づいて天気が荒れてたんですが、せっかく休みも取れたんだしと、大 雨の中を出発しました。途中、電車が徐行したせいで乗り継ぎがうまくいかなくなって、聞いたこともない駅で宿を探す羽目になったんです。駅員の紹介で古い 旅館に泊まったんですが、ほんとはだいぶ昔に営業をやめてたみたいで、通された部屋も、掃除の行き届いてない殺風景な六畳間でした。その晩、夜中に目が覚 めました。何か不思議な夢を見ていたような気がしたんですが、中味は思い出せないんです。しばらくするとまた眠っていました。ところがふたたび目が覚める と、やはり何か気になる夢を見ていた記憶があるんですが、内容が思い出せない。私は体を起こして、何となく辺りを見回していました。今まで気づかなかった んですが、床の間の続きの壁に小さな窓があります。私は直感的に、あの窓がさっき見ていた夢と関係あるような気がしたのです。私は布団を出ました。妻は寝 息をたてています。窓の向こうは真っ暗でよく見えません。錆び付いているのか、開くこともできませんでした。あきらめて布団に戻ると、隣で寝ていた妻が苦 しそうに声を漏らしたのです。あまりに眉をしかめているので、何度も妻の名を呼ぶうちに彼女は目を覚ましました。妻が言うには、あの小さな窓から人の顔が 覗いて、その唇が動いて自分の名前が呼ばれたのだと。夜が明けはじめるのを待って窓の外を確かめると、そこにはただ荒れた裏庭があるだけでした。あれ以来 私も妻も、夜中にうなされることがめっきり多くなりました。あの窓の外の景色の中に、何か見落としてきたものがあるような気がしてならないのです。もっと よく見ておけばよかったのにと後悔してます」

●武蔵野市 19才 専門学校生
「実家の近所に古い木造アパートがあったんで、みんな幽霊が出るって噂してました。たぶん空き部屋が多かったんだと思います。暗くなっても明かり のつかない部屋がほとんどでした。そのうちの一室にしのびこんだ男子がいて、押入に大量の古いハガキがしまってあったっていうんです。それが全部、喪中で 年賀状の欠礼を詫びるあのハガキだったって。しかも全部に宛名が書いてあって、ちゃんと消印もあるハガキなんですね。受取人の名前はどれも『工藤貞夫』 で、亡くなった人の名前は一枚一枚違ってたそうです。ハガキは何百枚もあって、とても一人が受け取るような量ではなかったし、そんなハガキばかりを溜め込 んで、押入にしまったまま引っ越してしまったのはなぜだろうって。みんな不思議がってました。そのとき盗んできた一枚を彼に見せてもらいましたが、『工藤 貞夫』の住所は北海道のどこかの、まるで聞いたこともない町でした」

●藤沢市 33才 無職
「近所のスーパーで、客が一人もいなくなる時間ていうのがあるんだな。午後の二時十分前後なんだけど。その時間に店にいると、きまって客が俺ひと りしかいなくなってるの。しばらくするとまたちらほら増え始めるんだけど、あれ何なんだろうねえ。だだっぴろい店内に呑気な音楽だけ流れてて、なんだか寂 しいんだよね。だから最近あまり行かないけど、まあ繁盛してるみたいよ」

●北区 53才 主婦
「隣の青田さん家がずっと留守だと思ってたら一家心中してたのよう。そんなの知らないから玄関先に回覧板置いてきたら、ちゃんとハンコついて次の 人に回ってたのよ。でもそのときもう青田さん家じゃ全員ロープで首くくってたはずなんだって警察の人が言うの。だからおかしいと思って沢さんに聞いたら、 あたしが回覧板持ってきたっていうわけ。青田さん留守だからとばすわって言って。そんなはずないって怒ったわよ、だって冗談じゃないわよちゃんとハンコ だってついてたしおかしいじゃない何であたしが持っていったのよう。それにあたし青田さんたちがみんなで鴨居にぶら下がってるの知らないで玄関に回覧板届 けたんだからいやねえ。ひどいわよねえ。なんで死んだりするのかしら。それにあんな小さい子供までいっしょにぶら下がんなくてもいいじゃない。死ぬほど切 羽詰まるとろくに知恵が回んないのかしら、なんだかそれも気の毒よねえ」

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