小説(超短篇)

現場

 その男は顔半分が遊園地だった。
「入場料はいくら?」
と訊ねると
「まだ工事中なんですよ」
 そう云って男は指の先まで真っ赤になった。

| | トラックバック (0)

齋藤くん

 齋藤くん、きみがくだものだったらよかったのに。きみがくだものなら私はよろこんで皮をむくよ、このナイフで。きみの頭をかかえこんでするする と、ナイフの下をすべらせていくと、太陽のひかりが透けるほどうすく剥けた齋藤くんの皮が私のひざのうえに包帯のように垂れてとぐろをまいてゆくよ。
  私は、こんなに白いスカートをはいているから、齋藤くんの皮のうらがわの、薄いピンク色がひざのうえできっとリボンのように引き立つはず。私は、きみへの プレゼントになったような気分を味わうよ。きみがくだもので、くだものが大好きな私はきみをナイフで剥いていく。すると君を剥いている私が大好きなきみへ のプレゼントにだんだんなっていく。なんて完結して、出口のないきれいなしくみなんでしょう。私はくだものが本当に大好き。たとえどんなくだものであって も。酸っぱくても、苦くても、かまわない。
 だけどきみはくだものなんかじゃない。だから私は齋藤くんのことが本当はだいきらい。私がきみにしてあげられるのは、もしきみがくだものだったら…と心の中で想像してあげることだけです。

| | トラックバック (0)

ガールフレンド爆破

 スクールバスから降りてきたのは全員頭部が火の玉になった生徒たちで、あたりの気温がそのせいでにわかに上昇する。窓から覗き込むとバスの天井が煤 けて黒い。頭が火の玉になった子供は顔の見分けがつかないので、迎えに来た親たちは着ている服で我が子を判断する。だが学校では今生徒どうしで服の交換が 流行っていたし、ぼんやりした子の親はたいていぼんやりしている事情もある。だから誤ってよその子を連れ帰るケースが続出。夜もふけてからこっそり正しい 組み合わせに戻しあう親たち。
 私はガールフレンドを爆破しに出かけた。家を出ると断崖のように階段がそびえ立ち、これを登りき らなければどこへも行けない。半分くらい登ったところで遠くに海が見えた。座礁した船の船員が海鳥に襲われながら手を振っている。私は手を振りかえした が、彼らからこちらが見えているかは分からない。なぜなら私は、階段の色とよく似た色のシャツを着ていたのと、海鳥の攻撃はまっさきに人間の目を狙うから だ。
 だが今はガールフレンドの爆破についてのみ考えるべきであろう。階段はなお尽きなかった。ガールフレンドは昏々と眠っている。目を覚ます前に爆破するのだ。粉々に。

| | トラックバック (0)

箱詰式detective

 探偵は金色の顔を、箱の蓋をずらした隙間から半分のぞかせた。探偵はつねに箱詰めされている。そして組み立てられることがない。だから探偵の金色の顔は、机上から未だ離れ離れの手足や胴の詰まった段ボール(未開封)のちらばる床を、眺めるたびやや青ざめて見えた。
  助手は? 働き者であるはずの助手もまた、未開封の箱で雑然と積まれている。こちらはまだ醒める気配すらない。荷解きの済まぬ事務所に足を踏み入れた依頼 者は、探偵史上に類を見ない<組立式探偵>の推理術の恐怖に触れる機会をみすみす逃し「住所あってるよねえ?」などとつぶやきながらまた出て行く。薄暗い 巷へ。引き止めろ、黄金探偵。

| | トラックバック (0)

山際君

 プールに水をためているあいだどうしてたかというと、読書です。図書館で本を読んでいたのです。夏休みのプール係だった私は同じく係の山際くん と、図書館へいった。冷房があまり効いていないのは、エネルギーを、節約するためなのです。私は雑誌コーナーで「歌劇」を読みます。山際くんは、気がつく といなくなっていた。
 私は「歌劇」をラックに戻して階段をのぼっていく。二階の閲覧室に山際くんはいて、がらんと空いた室内で わざわざ日のあたる窓際にぽつんとすわっています。私は、そっと近づいて、うしろから肩に手を置きました。山際くんはびくっとからだを反らせると、あわて て本のページをとじた。
「山際くん変! いやらしい本かくすみたい!」
 真っ赤になった山際くんは言い訳するみたいに本を私にさしだすと
「感動するよ。きみも読むといい。じゃ!」
 走ってその場から消えてしまいました。
 何なの山際くん。
 私の手の上に残ったのは、ヒトラーという男の人の伝記でした。
 なんでわたしがこんなの読むの。ヒゲがちょっと校長先生に似ていた。

| | トラックバック (0)

ワーム

 迷路はひろがり続けた。一国の領土をこえて拡大した迷路は他国のそれとつながり、国を飲み込んで巨大化しながらやがて大地を覆い尽くす。さらに海 底を這いずるようにひろがったすえ地表を征服したのちは地底を掘り進め、虫が林檎を食い荒らすように惑星の内側深くまでが残らず迷路に蝕まれた。
 今この一個の迷路はあらたなフロンティアを求めてうずうずしている。間近をかすめる彗星などあればたちまち餌食となるだろう。

| | トラックバック (0)

ひまわり

仕事もないのにこんないい天気だ。
いい天気だからって、どこに出かけるにも金はいるのだ。
たとえ金はいらなくても気力が少しいる。
金がないので気力が出ない私は、このいい天気を、カーテンで半分隠れた網戸の窓越しに寝たまま見あげる。
ひこうき雲が使用後の傘カバーみたいによれていくのを。
やがてとなりの家のアンテナの先っぽにひっかかるのを。
誰かがテレビを見てたら、ものすごい障害が発生してるだろうに。
留守で残念。
臨時ニュースの数々で、番組は付箋のびっしりついた本みたいになってるのに。

うちのテレビは何も起きなかった。
うちのテレビは選挙の話でもちきりだ。
ゆうべ誰か(顔も知らない。窓をノックした手だけ見えた)に選挙権を五千円(それでガス代を払った)で売ってしまったから私は選挙に行けない。
私の選挙権で投票に行く人は誰に入れるのだろう。
かんがえただけで頭は蝉の声でいっぱいだ。
本当は知ってるがここでは言わない。
あわてて買い戻して庭に埋めてひまわりの種を植えなきゃ、ならなくなるので。
もう遅すぎるのに。九月にひまわりだなんて。

ひまわりのかわりに見張りに立ってくれる人を、雇う金なんてないよ。

| | トラックバック (0)

円盤からアジビラ

 きみがいつもより正気なのは黒いカプセルのせいじゃなく、きみが正気に見えるくらいぼくの頭にアジビラが降るからだ。
  つくりかたを知らないぼくらが黒いカプセルを買うために、あんなイヤなこと、そんなツライことをしてまでこの世で金を稼ぐよ。きみがスナイパーに雇われて ぼくの心臓に狙いをつけても、札束がきみのポケットにねじこまれるのを見届けるまでぼくは身じろぎもせず待つだろう。それどころかシャツの胸にあわててサ インペンでへたな標的を書きなぐるだろう。
 黒いカプセルをまぶたに載せると世界は、ぼくら以外のすべての携帯電話が話中になる。すべてのラブホテルの表示が満室になる。すべての袋とじページが乱丁になる。
 すべての預金口座に一億円が振り込まれるだろう。ぼくら以外のね。

| | トラックバック (0)

黄色い線の内側

 駅だと思って切符を買ったのに、くぐり抜けたのは改札ではなくモーニングの右袖だった。
 ぼくは呼ばれてもいないパーティーの受付で足止めを食らい、目当ての電車に乗り遅れる。ローストビーフを切り分ける男の脇の下を回送列車が通過した。

| | トラックバック (0)

ピクニック帰り

 まがりくねった道を川沿いに下ってきた。太陽が水しぶきを跳ねあげて何度も川面に身を投げる。そのたびぼくは目覚めて自分が道の途中にいるのを気づく。
「家族が出払ってしまった家の寝室で、目覚まし時計のベルが誰にも止められない」
 というのがぼくが呼び戻される理由だった。靴の中でぼくの足は豆だらけだった。
 蜂蜜を塗った食パンをたっぷり余らせたので、リュックは行きと変らぬ重さだ。まがりくねった道をまっすぐにショート・カットして風が吹き上げてくる。風には機械油の匂いが混じる。町からここはそんなに遠くない。
 道は川に沿うだけでなく、川をまたいだり、川に踏まれたり、複雑に両者は絡まりあって進んでいる。川は落ちるように軽快に斜面をすべり、道はひきずるようにゆっくり斜面を這う。どちらも行き先は一緒で、めだかでも木の葉でもないぼくはひたすら道を行くのだ。
 川は工場の敷地に入るとたちまち廃水で濁り、刺激的な匂いの泡を立てはじめる。
 ぼくは道とともに正門をくぐった。むこうから部品が流れてきたのであわてて飛びのいて、雑草と石ころの上で通過を待つ。
 背中の荷物はいよいよ重くのしかかり、溶けた蜂蜜がリュックの底を濡らしている。甘い匂いを嗅ぎつけた蟻がぼくのズボンの中を駆け上る足音がする。チケットを半券にするために引きちぎる点線のように。
 沿道の工員たちは手に手に日の丸を握りしめている。何も持たないぼくは、拍手と曖昧な手振りだけで無数の部品を見送った。ラインのかなたに遠ざかる部品を。 

| | トラックバック (0)

より以前の記事一覧